愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「別に俺、“好きだ”なんて一言も口にしてないのに。
勝手にそうだと解釈して、その結果これだよ」
「わざとそう言ったんでしょ、瀬野くん」
「事実を言っただけだよ、川上さん。実際に俺の一方通行で、川上さんは拒否ばかりしてくるよね」
それは興味の問題だろう。
“好きという気持ち”が一方通行という意味ではないのだ。
「もういいから帰ろう?
ごめんね、一緒に帰る羽目になって」
「どうして?
俺は嬉しいよ、川上さんと一緒に帰れて」
「気を遣わなくていいんだよ」
私は全く嬉しくない。
むしろ最悪だ。
もし誰かにつけられていたら最悪なため、一応笑顔を取り繕って歩く。
視線も何も感じないため、恐らくつけられていないようなのだが───
いや、違う。
そう思ったのは、瀬野が駅とは少し外れた道を歩き出したからだ。
遠回りにしても、それには理由が必要である。
気になった私は周りを意識しながら歩いていると───
「……っ」
道路に停められていた車に救われた。
その車のバックミラーに映ったのは、クリスマスパーティーに参加したクラスメイトの姿ではなく。
明らかに私たちをつけているひとりの男。
髪は紫がかっており、暗闇に紛れている。
瀬野の良からぬ行動に気づくまで、全くわからなかった。
「……気づいた?」
ボソッと一言。
瀬野は初めから気付いていたようで。
「“あれ”は何?」
「俺を狙う敵?」
「で、どうしてわざと人通りの少ない場所に来たの?」
緊急事態だ。
なるべく小さな声で話す。
表を取り繕う以前に重大なことである。