愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
*
まだ人が少ない朝の電車に乗り、学校の最寄駅を目指す。
どちらも口を開かない中、車窓から見える景色をじっと眺めていた。
「ねぇ川上さん」
「……なに」
「もしかして怒ってる?」
「別に」
なんて言ったけれど、内心怒っている。
そんなの当たり前だ。
昨日から何度も軽率にキスをされたのだ、許せるはずがない。
「怒るならどうして照れるのかな。
もっと嫌がって、抵抗すればいいのに」
「…っ」
「それに警戒心なんて一ミリもないからね、川上さん。簡単にキスできるんだよなぁ…お願いだから他の男にバレないでよ?」
「うっさい」
本当にムカつく、イライラする。
今すぐその頬を引っ叩いてやりたい。
「かわいい。
外なのに裏が出ちゃってるよ?」
「今はいいの。ちゃんと考えてるから」
この時間帯に、この電車を乗ることはもう二度とないだろうから大丈夫なのだ。
ただ学校に近づくにつれ、気をつけなければならない。