お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 一刻も早くここを立ち去らなければと考えるより早く体が動いた。
 もう仕事も続けられないだろう、そう思ったら自然と涙が溢れる。けれどふすまに掛けようとする真帆の手は大きな蓮の腕に阻まれた。

「おいっ、まて。まだ話は終わっていない」

 真帆とふすまの間に蓮が立ちはだかる。厳しい表情の蓮が涙に滲んで見えた。

「…悪かった。なにも知らない君に、辛く当たって」

 厳しい表情からは想像もつかないほど優しい声で蓮が言った。

「言い訳にしかならないが、俺は親父が無理やり持ってくる話にはうんざりしてたんだ。小鳥遊グループのお嬢さんが見合いだとわかって秘書室にくるというからよほど図太いか世間知らずかのどちらかだろう、俺にその気がないのがわかればプライドが傷ついてさっさと向こうから断ってくるだろうと思ったんだ」

 蓮の大きな手がゆっくりと近づいて涙に濡れる真帆の頬を包んだ。
 
「…でもよく考えたら、初めから君には違和感を感じていた…」

 もう一方の手が真帆の腰を引き寄せる。驚いて見上げる真帆の瞳から溜まっていた涙がポロリポロリと溢れた。
 とくんとくんと高鳴る鼓動まで聞こえそうな距離だった。

「飾り気がなくて、仕事に前向きで、俺にもはっきりと物を言う…不思議な子だと思ったら、…目が離せなくなっていた」

「副社長…」
< 167 / 283 >

この作品をシェア

pagetop