【完】ボクと風俗嬢と琴の音

俺の肩を軽く叩いて、電車に乗り込んだ優弥は

ぎゅうぎゅう詰めの車内の中から俺へ手を振る。



彼女か…。
そう思いながら携帯を開く。

画面には、住宅情報サイト。

いやいや、ありえないって。

彼女なんて全然作る気もないし、出来る気配もない。
…今はそれどころじゃないような気もするし

大体俺と居ても楽しくないと思うしさ。
やっぱり女の子だって付き合うなら、優弥みたいにアウトドアで、色々な場所へ遊びに連れて行ってくれる人の方がいいと思うし
インスタ映えするような今流行りのお洒落なお店を知っている男の方がいいに決まってる。

やっぱ、無しだよなぁ。
大体俺は女の子の扱い方が全然分からないし。

それに俺には、彼女より大切な人がいる。





今日もうんざりするような満員電車。


優弥も言う通り180センチを超える身長の俺は、出来るだけ邪魔にならないように小さくなってぎゅうぎゅう詰めの電車に乗る。


痴漢に間違われないように両手を上げて、毎日気を使って


都内の電車。どこからどうやってこれほどまでに人が蟻のようにうじゃうじゃ沸くのか。


行きも帰りも乗っているだけで具合いが悪くなりそうな狭い車内の中揺られて、大した楽しくもない仕事をして帰って


生きるためにお金は必要だけど、何の為に働いているのか。


通勤するだけで体力は削られていく!
家路へ着くころはきっとHPは0だ。


けれど帰るのが楽しみになったのは、3か月前から。


そう悩みが始まった、3か月前。




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