【電子書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「すみません、お待たせして。すぐに作りますね」

(きっと私は前世で料理の天才だった。そういうことにしておきましょう)

 無理やり自分を納得させたカルミアは馴染みのエプロンを纏う。早く完成させなければ空腹に絶えかねたリデロあたりが乗り込んでくるかもしれない。
 ところがカルミアはまたもリシャールの申し出に驚かされることになる。

「私に手伝えることはありませんか?」

「お客様にそんな」

「私が手伝いたいんです」

 やんわりとした物言いではあるが、譲らないという強い意思も感じさせる。何度も言わせては逆に申し訳ないだろうと考えた結果、カルミアは了承することにした。

「では皮むきと、野菜を切るのを手伝ってもらえますか? 量が多いので、結構時間がかかるんです」

「お任せください」

 カルミアは保冷庫から運んできた野菜を広げた。
 三百年前は水を調達することにも苦労したが、現在では魔法の普及と技術の発達により、手をかざせば蛇口から簡単に水が流れるようになっている。
 ジャケットを脱ぎ、腕まくりをしたリシャールも野菜を洗い始めた。

(もう一着エプロンを用意しておくべきだったわね)

 船員たちはエプロンを着て調理場に立つことがないためエプロンはカルミア専用となっていた。しかし次からはもしもの時に備えてもう一着積んでおくことも考えておこう。
 そんなことを考えながら、皮をむくリシャールの隣でカルミアは米の準備を始めた。カレーには白いご飯が欠かせないのだ。
 あらかじめ浸しておいた米の水を切って鍋に移す。水を加えて火にかけると、リシャールはカルミアの行動に目を見張った。

「コンロに蓄えてある魔法具の力は使わないのですか?」

 水と同じように、コンロは予め魔法具に込められた魔力が燃料となり火を起こす。しかしカルミアは自らの力で火を放ち、それも一定の加減を保っている。
 リシャールの疑問に対してカルミアの答えは単純なものだった。

「節約です!」

 蓄えられた魔力は使えば減っていくもので、尽きれば当然補充しなければならない。船という限られた空間においては節約するに越したことはないだろう。自分の魔力で足りのならそれが一番だ。

「火加減も、先ほどから一定に保たれていますね」

「温度が変わっていては美味しいものが出来ないんですよ」
< 21 / 208 >

この作品をシェア

pagetop