【電子書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「しかし、こうも自然に火を生み出すとは……」

 カルミアにとっては何気ない行動で、船員たちにも見慣れた光景ではあるが、リシャールが驚くのも無理はない。
 火を生み出すことは高度な魔法であり、一定に保つにことも難しい。コンロのような限られた範囲で、鍋を温めるためだけに使うとなれば、なおさら繊細な技術が必要になるだろう。
 いずれも訓練が必要なものであり、それを補うために技術が進歩した。人は魔力を持って生まれていても、コントロール出来るかはその人の努力次第だ。そのために各地に魔法教育の場が存在している。

「アレクシーネの生徒とはいえ、ここまでの技量は……。リデロさんが我が校の生徒にも引けを取らないと話していましたが、本当のようですね」

「褒めすぎです。私なんて」

「とんでもないことですよ。ここまでの魔法を習得されるまでには大変な苦労が伴ったはずです」

 教育者だけあってリシャールは鋭かった。

(そうね。何度も失敗して、その度に悔しい思いをしたわ。でも、いつか私を馬鹿にしたリデロをぎゃふんと言わせてやるって、特訓を重ねたのよね)

 何も出来ないお嬢様。
 そう言われることが悔しくてたまらなかった。

(それなら私は何でも出来る魔女になって驚かせてやるって、そう誓ったのよね)

 航海において水や火は貴重なものだ。風が止めば船は速度を失い、嵐が訪れれば為す術がない。しかし、それらをたった一人で解決してしまうのが優れた魔法使いの存在だ。
 幸いなことにカルミアには魔法の才能があった。それも日々の船旅で訓練を重ね、繊細な魔法も大規模な攻撃魔法も得意となっている。
 そんなカルミアの努力をリシャールは即座に見抜き賛辞を贈った。
 けれど幼い頃の失敗談を知られたくないカルミアは何でもないと笑う。身体に染みついた年上への対応か、弱さをさらけ出すことを拒んでいるようだ。

「船旅って、結構暇なんですよ。私はその時間を使って、人よりちょっとだけ練習時間が多かっただけなんです。船のみんなが頑張ってくれるのなら、私だってみんなが誇れるような立派な船長になりたくて」

 リシャールがその通りだというように頷いてくれる。あまりにも真剣に話を聞いてくれるので、自分で言っておきながら次第に気恥ずかしさが生まれてしまった。

「あの! みんなお腹をすかせていると思うので続きを!」
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