16歳、きみと一生に一度の恋をする。
麗らかな桜の匂いがする帰り道。
私はポケットからスマホを取り出した。画面をじっと見つめたあと、発信ボタンをタップする。
『――はい』
五回目のコール音のあとに聞こえてきた男性の声。もっと心臓が速くなると思っていたけれど、私は意外にも落ち着いていた。
「わかる? 汐里だけど」
まだスマホを持っていなかった小学生の頃、なにかあった時にと番号が書かれたメモを渡されていた。
それを捨てずに持っていただけではなく、私はスマホを買ってもらった日に電話帳に登録していた。いつか必要になるかもしれないと思っていたのはきっと……。
「お父さん、私と会う時間を作れないかな」
心の中では、いつかふたりで話さなければと考えていたからだ。
私はここを乗り越えていきたい。
じゃないと、きみのことも探しにいけないから。
お父さんはすぐに時間を作ってくれた。
おそらく仕事だったと思うけれど、それだけ私から電話をかけたという重さをわかっているようだった。
待ち合わせは、駅前の雑居ビルの一角にあるレトロな喫茶店。私が先に着き、十分遅れでお父さんがやってきた。
「久しぶり」
最初に声を出したのは私のほう。両親が離婚してから一度も会っていないので、約六年ぶりの再会だ。