転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
 扉がノックされたのは、ドリスさんが部屋から出て行って二時間ほど経ったころだった。
 想像よりずいぶん遅かったので、もう誰も来ないんじゃないかと思っていたが、さすがはドリスさん。やると言った約束は、きっちりと守ってくれたようだ。

「すみません。失礼いたします」
「は、はい! どうぞ!」

 自分の部屋ではないのに、誰かを招き入れるなんて変な感じだ。
 扉が開き、部屋に緑髪の執事が入ってくる。彼が、フィデル様の専属執事か。

「遅れて申し訳ございません。少しバタバタとしておりまして……。ドリス様に申し付けられてやってきました。ニールと申します」

 丁寧に挨拶をし、頭を下げるニールさん。近くで見ると、年齢は三十代くらいだろうか。見た目が若くてわかりづらい。センター分けで少し外ハネの緑髪がトレードマークだ。

「初めまして! こちらこそ、突然呼び出してごめんなさい。私はシエラ・ガードナーといいます。ドリスさんには、王妃教育でお世話になしました」
「……シエラ様というと、エリオット様の婚約者の」
「あ、はい。もう過去の話ですけど……」
「す、すみません。やはり婚約破棄の話は、本当だったのですね。私としたことが、シエラ様に辛い話題を振ってしまい……」
「全然! 気にしないでください! もう吹っ切れてますから!」

 慌ててニールさんを宥めると、ニールさんはじっと私を見て口を開いた。

「……エリオット様も、なにを考えているのか。こんな素敵なお嬢様を手放すなんて」
「えっ。そ、そんな、私なんてロレッタに比べたら全然かわいくないし」
「そんなことありません。シエラ様はじゅうぶんかわいらしい女性ですよ」

 ……この人は天然タラシなんだろうか。久しぶりに〝かわいい〟と言ってもらえて、満更でもない自分がいる。
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