妖しな嫁入り
 私の杞憂は一体……やり場のない気持ちが膨らむけれど、それを上回るのは嬉しさだった。

「さて、荷造りは終えているな? 嫁が見つかったのらなここに留まる理由はない。すぐに発つ!」

「へ、え!? どこへ――」

 声にしてすぐに実家のことかと納得する。それにしても帰ってこられたと懐かしんだのも束の間だ。
 ねえ、私もそこへ行っていいの?

「君を愛しぬくと誓おう。共に来てくれないか?」

 当たり前のように朧は望む言葉をくれる。
 こんな私を望んでくれるのなら、もう迷わない。
 今度こそちゃんと伝えよう。

「どこへでも行く。私がいたいのは朧の隣。だから……」

「ん?」

 朧は初対面で簡単に言ってのけた。だから私にも出来ると思ったけれど、実際はとても勇気が要ることだった。

「お前の……妻に、してほしい。……なりたい」

 消え入りそうだ声でようやく告げる。体中が沸騰しているように熱い。その体温ごと力いっぱい抱きしめられる。

「俺には君しかいないよ」

 これが人と妖であれば悲恋、あるいは神隠しとして語り継がれたのかもしれない。けれどここにいるのは二対の妖、私たちを取り巻く物語は幸福に幕を閉じる。

 闇に囚われていた私はもういない。闇は私が従えて生きる。たとえ闇に染まったとしても、この(ひと)と生きることを望んだ。
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