悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

「あれは男とみなしませーん」

 悔し紛れに言い、入れ歯を洗う亜里。

(私だってね、リアルでは全然だけど、ゲームの中ではすごいんだから。どれだけの男が私に夢中だと……)

 心の中で言っているだけでも悲しくなったからやめた。

「ねえ、今日は定時に上がれそう? 久しぶりにご飯行かない?」

「えっ。行く!」

 栄養士はいつも定時で上がれるが、私は夜勤もあるし日勤でも定時で上がれないことしばしば。

 オタク生活を満喫したくて家を出た亜里でも、誰かと心置きなく話したい日もある。

「よかった。じゃあ、またあとで連絡するね。栄養指導行ってくる」

 皐月はファイルを持ち、大部屋の方へ歩いていった。

 後ろから見ても、いい女っぷりがわかる歩き方だった。



 無事に定時に仕事を終わらせた亜里は、病院の出口で皐月と落ち合い、病院からタクシーで10分ほどの飲食店に到着した。

 皐月が選んだラクレットチーズと肉料理が売りのレストランは、こじんまりとしていて隠れ家的な雰囲気を放っていた。

 半個室の席に案内された亜里は、向かいに座る皐月を見てほうっと息を吐く。

 彼女は肌も綺麗で、髪は崩れておらず、私服はノースリーブのニット。胸は大きく、腕は細い。

< 11 / 215 >

この作品をシェア

pagetop