悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

「すごいね、皐月って。いつも綺麗にしててさ」

 マニキュアこそ塗っていないものの、綺麗に整えられた指先でメニューをめくっていた皐月は微笑んだ。

「ありがとう」

 綺麗にしている自覚がしっかりあるのだろう。彼女は否定せずにうなずく。

(私なんてさ……)

 不規則な勤務で肌はボロボロ。どうせ汗で崩れてしまうから、メイクはほとんどしていない。

 髪はひっつめてシニョンにしていたせいで変な癖がついていてボサボサ、こまめな手洗い消毒の結果指先はささくれひび割れし放題。

 自己嫌悪に陥る亜里に、皐月がメニューを差し出した。

「なに食べようか。ラクレットチーズだけじゃなくて、チーズフォンデユもあるよ」

 チーズまみれの料理たちは、疲れた亜里の食欲を刺激した。

「私、チーズの海に溺れたローストビーフの上にラクレットチーズで! 追加でバゲットとポテト、あとビールも」

 亜里がほぼ脂肪と糖分の食事を選んでも、皐月は注意しない。

 病院を離れたら栄養士的なアドバイスは一切なく、好きな物を好きなだけ食べてもにこにこしている皐月を、亜里は好いていた。

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