悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
白い高級車の運転席にいたのは、皐月の婚約者で外科医の宮瀬だった。
嬉しそうに駆け寄る姿を亜里が呆然と見ていると、助手席を開けた皐月が振り向いた。
「亜里! 先生が送ってくれるって。乗りなよ」
手招きする皐月は、亜里にとってもう別次元の人間だった。
「ううん……大丈夫。家まですぐだから、歩いて帰るよ。皐月のマンションとは逆方向だし」
「でも、真っ暗だし危ないよ」
「大丈夫だって。じゃあね」
亜里は車に向かい、形だけのお辞儀をして駆け出した。
みじめな自分を、それ以上見られたくなかった。
少し走っただけで、息が切れた。
後ろを振り向くが、店も宮瀬の高級車も見えない。
亜里は背負っていたリュックから携帯ゲーム機を出し、イヤホンを装着した。
いつもは家に置いてくるのに、どうしてか今日は持っていかなければならない気がしたのだ。
スマホでもゲームはできるが、今はまっているゲームは携帯ゲーム機でしかできない。
「大丈夫、大丈夫……」
震える指で起動したゲーム機を見たまま、亜里は道の端に寄った。
(推しがいれば生きていける。推しを見るだけで幸せになれる)