悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
普通、王族の結婚式とは、領地を上げて祝うものだ。
国王や兄弟からの祝いの品や手紙もなく、城から出て民衆に花嫁を披露することもしないとは。
『城のバルコニーから手を振ったり、馬車でパレードをしたりしないの?』
『そんなことをしても、誰も集まりはしないさ』
ルークは寂しそうに、そして自虐的に微笑んだ。
たしかに、城の外から溢れてくるはずの民衆の歓声が、耳をすませても全く聞こえない。
『どうして……』
自分が嫁にきたことが何か悪かったのかと、アリスは気を揉む。
「君に落ち度は一切ない。俺たちが民衆に嫌われているからだ」
ルークは小声で言い、広間に集まっている警備隊員たちに視線をやった。
彼らは下品な冗談を言いあい、だらだらとテーブルを運んでいる。
『俺も一緒に準備をするから、君は休んでいてくれ』
今からこの広間を宴会場にするのだろう。
ルークの城は国王のそれとは比べ物にならない小ささで、大人数が集まれる広間はここしかないのだ。