みずあめびより
「あ!すみません!」

「いいよーごめんな。俺がでかいから通路狭くなってるんだよな。」

北岡はパソコン画面から顔を上げて衣緒の方を見ると眉を下げて微笑みながら言った。

「すみません・・・。」

二人の会話に北岡の隣の席の今城がうんざりした様子で言う。

「でかいからだけじゃないでしょ。だいたい、北岡散らかし過ぎ。通路にも荷物置き過ぎだし、私の方まであんたの物が入ってきてるんだけど。」

その言葉に北岡は下げていた眉を上げムッとした様子で言い返す。

「うるせーな。仕事たくさん抱えてて資料多いんだからしょうがねーだろ。ここら辺までは俺の陣地だよ。」

「は?ここからは私のスペースでしょ。」

二人はすっかり臨戦態勢に入ってしまい、衣緒は『まずい』と思って、北岡に提案をする。

「あ、あー、北岡さん、私のデスクの引き出し一つ空いてますから、よかったら荷物入れますか?」

───このままでは、私がつまづいたせいで争いが・・・。

「彩木さん、こんなやつ甘やかさないでよ。絶対つけあがって、そっちにこれもあれも置かせてってなるよ。」

今城が北岡を睨み付けたまま鋭い声で言うと、すかさず彼が言い返す。

「何言ってんだよ。彩木さんに一番甘えてんのはお前だろ!?」

「『お前』って言わないで!」

今城が『キーッ!』となりながら言った。

「・・・。」

────しっかりしなきゃ・・・。

いつもの二人らしいやり取りを聞きながら、衣緒は気持ちを切り替えなければ、と思った。

そんな彼女の様子を鈴太郎はパソコン画面の端から見ていた。



ただでさえ一週間の疲れが出る金曜日に、ミスをしないように気を引き締めて仕事をしたのでとても疲れた。

疲れてはいたけれど、このまま沈んだ気持ちで家に帰る気にはなれず、会社近くにあるお気に入りの雑貨屋に向かった。

そこで予想外の人物に出会った。
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