みずあめびより
「俺は平気だから。荷物ひとつ持つ。」

「え、大丈夫です。本当に軽いんで。あ、でも写真撮ったりするから、会場に着いたらコインロッカーに預けても・・・ホームページ見たらあるって書いてあったし。」

「いいから。」

荷物を一つ取ると、彼女の上半身に目が行く。今日は外勤ということもあり、いつも社内では着ていないジャケットを着ていた。

「・・・そういう服装も似合うな。」

思わず口に出てしまう。

「・・・え、あ、ありがとうございます。」

衣緒は嬉しさと恥ずかしさが混じった顔を見せる。

「・・・。」

───仕事忙しかったし、昨日の打ち合わせも疲れたけど・・・ビタミン剤よりも、そういう顔見れる方が元気になる。・・・でも彼女は新貝と・・・。

「葉吉さんも・・・。」

『素敵です。』そう言おうとして改めて彼の服装を見てはっとしてしまった。

───二度あることは三度ある・・・。

二人ともベージュのジャケットに白いシャツ、ボトムスは鈴太郎はライトグレーのセンタープレスパンツ、衣緒はライトグレーのボックスプリーツスカートだったのだ。

───ペアルック・・・。

「・・・?・・・!」

彼女の視線を追って自分の服装を確認した彼も同じことに気がつき、心臓が静かに跳ねた。

「い、行きましょうか。」

「あ、ああ。」

並んで歩き出すと鈴太郎は違和感に気がついた。

───なんだろう?

彼女の方を見ると歩き方がいつもと違う気がする。

───あ、今日はヒールなんだ。

いつもはフラットな靴を履いている彼女が服装に合わせてヒールを履いていた。明らかに慣れておらず歩きにくそうだ。

「・・・時間あるし、ゆっくり行こう。会場でも別に全部見なくちゃいけない訳じゃないし、気になるもの見てくればいいんだから、途中で休憩もしつつ楽しもうよ。」

「・・・はい。」

───まさか、ヒールのことまで気づいてくれたとか・・・?優し過ぎる・・・。もう好きで好きで苦しいよ・・・。
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