みずあめびより
「彩木さんはいつまでも昔の恋愛に囚われて、俺の気持ちも新貝の気持ちも自分の気持ちも全部見てないじゃないか!もう、とっくに昔とは違うだろ?自分が未熟だったって自覚できてる。もう、扉は開いてる。一歩外に出ればいいだけなのに、一生そこに閉じこもってるつもりか!?俺・・・こんなに、どうしようもないくらい好きなのに・・・。」

自分に覆い被さり、鋭い、でも確かな優しさを含んだ眼差しで心を真っ直ぐにぶつけてくる鈴太郎に衣緒も応える。

「私だって好きです!今日だって・・・一緒にいればいるほど好きになって・・・っ。」

唇が唇で塞がれ、言葉が遮られた。

時が止まったかのように波の音も風の音も聞こえなくなる。

頑なに何層もコートされた心の表面にヒビが入っていくような感覚がした。

唇が離れて一瞬彼の顔が見えたと思うと強く抱きしめられる。

「俺だって自信ない。まだ見せてない駄目なところがたくさんある。それに、一緒にいたら、本音で接したら、そうしたくなくても傷つけて泣かせることもあると思う。それでも俺は何回でもその涙をぬぐうから。彩木さんが俺から離れて行くまで、抱きしめて離さない。俺の全部で彩木さんの全部にぶつかっていくから、信じてくれないか?俺のことも自分のことも。」

ヒビが入った心の表面のコーティングが音を立てて割れ、細かい破片になると、宙に浮いてキラキラ光りながら消えていく。

残ったのは柔らかい、そのままの心だった。

「・・・はい。」

頭を通さずに心から声が出たようだった。

涙が頬を伝う。

そんな彼女を愛おしそうにしばらく抱きしめた後鈴太郎が顔を上げる。

「・・・嬉しくて泣いてくれてる?」

指で涙に触れる。

「・・・はい。」

「ごめん。急に押し倒して。頭痛かっただろ。」

衣緒の体を抱き起こしながら後頭部をさする。

「・・・それどころじゃなかったので。」

「・・・そうだな。」

顔を見合わせて笑う。

「・・・あの。」

遠慮がちに彼と目を合わせる。

「ん?」

「一つお聞きしたいことが・・・。」

気持ちが通じ合って嬉しいけれど、だからこそ聞かずにはいられない。
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