みずあめびより
大浴場が閉まる直前の時間なので女湯を一人占め出来た。

露天風呂は思った以上に良かった。浴槽の周りにたくさんの植物が置かれ、非日常感を楽しめた。お湯は少しぬるかったけれど空気が澄んでいて星が綺麗だった。


脱衣所から廊下に出ると男湯から鈴太郎が出てきた。

「あ・・・。」
「あ・・・。」

───『おやすみなさい。』って言ったのにまた会っちゃった・・・でも嬉しい。

自然と顔が緩んでしまう。

「もしかして、大浴場で一人だった?」

「はい。贅沢だけどちょっと寂しい感じでした。」

「俺も一人だったよ。露天で話しかけたら聞こえたかな。」

「・・・はっ!」

衣緒は慌てて浴衣の上に着た羽織の袖で顔を隠す。

「え!?何!?」

「すっぴんだから・・・。」

「またそれか。気にしないでいいのに。」

鈴太郎は呆れたように眉を少し(ひそ)める。

「三十路ですから、毛穴開きとかシミとかニキビ跡とかほうれい線とか、今まで積み重ねてきた年月が顔に刻まれて・・・。」

「そんな風に言われたら余計見たくなるよ。」

彼女の両手を掴んで顔から離す。

「あぁ~~!無理です!」

「・・・綺麗だよ。」

じっと顔を見つめて言う。

「私なんかにお世辞なんて・・・。」

鈴太郎は、なおも俯いて髪で顔を隠そうとする彼女にグッと近づいて言った。

「俺は冗談も言えないけど、お世辞も言えないんだよ。」

───本当に綺麗だ。それにすっぴんを見ることが出来て嬉しい。

「・・・あ、ありがとうございます。」

顔が近くてドキドキしながら上目遣いで言うと、手を掴まれたままキスされた。

衣緒は慌てて誰か来ないか辺りを見渡す。

「いや、もうしちゃったから今更周り見ても。」

「そうですけど・・・。」

離された手で熱くなった両頬を覆う。露天風呂はぬるかったのに、今ここでのぼせてしまいそうだ。
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