みずあめびより
商店街の靴屋でローヒールの靴をいくつか試着する。

「これにしようかな。」

「これだな。」

鈴太郎は衣緒が選んだ靴を彼女の手から取ると財布を取り出しレジに持って行こうとする。

「ちょ、あの、自分で買います。私が慣れない靴はいてきたのが悪いんだし。」

衣緒が慌てて鈴太郎のジャケットの袖を掴んで言うと、彼は彼女を見下ろしながら淡々と言う。

「・・・彩木さんは俺の彼女でしょ?」

「かの・・・う、えっと、そう・・・なりますよね。」

───改めて言葉にすると、すごくくすぐったい。

「俺の彼女の靴は、俺の靴でしょ?俺が俺の靴買うのは当たり前。」

「えっと、『俺の彼女』の『の』は『関係』を表す『の』で『彼女の靴』の『の』は『所有』を表す『の』だから違うかも・・・。」

鈴太郎は、ふう、と溜め息をついた。

「・・・リハビリ、必要だな。」

「え?」

「人に甘えるの封印してたんだろ?ここは甘えるとこ。俺が引き留めたんだし。俺、上司だし。あっ・・・間違えた・・・。彼氏だし、俺。」

「・・・!」

───彼氏・・・!葉吉さんが私の・・・!

その言葉が嬉しくて泣きそうになってしまう。

「だから、そういう顔するなって。買ってくるから待ってて。」

鈴太郎はほんのりと頬を染めたままレジに向かった。


衣緒は鈴太郎に深々と頭を下げてお礼を言うと、履いていたヒールをショップの袋にしまい、新しい靴に履き替えた。すると途端に歩きやすくなった。

「新しい靴履く時って 、気持ちが新たになるから好きなんです。特別な瞬間というか。それが今で・・・その・・・葉吉さんといる時で・・・嬉しいです。この靴履いてたらいいことがたくさんありそうというか。」

その言葉を聞いて鈴太郎は苦しそうな顔になった。

「・・・やっぱり、カフェ行かないで帰ろうか?」

「え!?体調悪いですか?あ、疲れてますよね。」

「そうじゃなくて・・・。」

───早く二人になりたい・・・。

熱を帯びた視線で見つめてしまっている自覚があった。
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