シンデレラの網膜記憶~魔法都市香港にようこそ
梁裕龍先生は、エラに興味があるようだったが、話しかけていいかどうか躊躇しているようだった。
「あっ、気づきませんで失礼しました。ミス・エライザ、こちらは梁裕龍先生。昨日まで開催していた香港眼科学会のプレジデント。梁先生、こちらは、ミス・エライザ。彼女は…」
タイセイはどう紹介するか迷った。
香港でどこかの家庭のメイドをしていることはわかっていたが、それ以外のことは全く知らない。だいたいさっきミスと紹介したが、本当にそれでいいかも実は知らないのだ。
「彼女は…アーティストで、今日は香港の街のアートについて、いろいろ教えていただいています」
アーティストという紹介に、エラはびっくりした眼でタイセイを見返す。
「これはこれは…芸術家にお会いできるなんて、大変光栄です。やはり、我々無粋な医者とは違って、クリエイティブなオーラが漂っておりますな」
梁裕龍先生は、うやうやしく手を差し出す。
タイセイのひとことで、自分に魔法がかかったのだろうか。貧しいメイドが、香港新鋭のアーティストに見えるらしい。エラは申し訳なく思う反面、偽とはいえアーティストという肩書に少しばかりの心地よさも味わっていた。
「梁先生も学会が無事終わって、ひと安心ですね」
「ええ、ただ学会の準備で長く家庭を構わずいたので…。罪滅ぼしに今日は妻の使いでアンティックの家具を調達です。しかし…纐纈先生のお姿を見つけて、思わず声をかけてしまいました」
「わたしも、香港を離れる前にもう一度梁先生にお会いできてうれしいです」
「実は…ちょっと伺いたいことがあって…プライベートな時間で申し訳ないのですが…少よろしいでしょうかな?」
「私は構わないのですが…ミス・エライザ。よろしいでしょうか?」
タイセイは同席の女性にお伺いを立てる。もちろん、エラに断る理由もない。
「ええ、どうぞ、梁先生お座りください」
エラは梁裕龍先生に椅子をすすめた。
「纐纈先生が研究されている『網膜神経を形成するマイクロRNA群』についてなんですが…」
いきなり、早口で語り始める梁裕龍先生。
「そのマイクロRNAの一種 『miR-124a』が、脳や網膜といった神経回路の形成と神経細胞の生存に、非常に重要なものであるとおっしゃっていましたよね」
「あっ、気づきませんで失礼しました。ミス・エライザ、こちらは梁裕龍先生。昨日まで開催していた香港眼科学会のプレジデント。梁先生、こちらは、ミス・エライザ。彼女は…」
タイセイはどう紹介するか迷った。
香港でどこかの家庭のメイドをしていることはわかっていたが、それ以外のことは全く知らない。だいたいさっきミスと紹介したが、本当にそれでいいかも実は知らないのだ。
「彼女は…アーティストで、今日は香港の街のアートについて、いろいろ教えていただいています」
アーティストという紹介に、エラはびっくりした眼でタイセイを見返す。
「これはこれは…芸術家にお会いできるなんて、大変光栄です。やはり、我々無粋な医者とは違って、クリエイティブなオーラが漂っておりますな」
梁裕龍先生は、うやうやしく手を差し出す。
タイセイのひとことで、自分に魔法がかかったのだろうか。貧しいメイドが、香港新鋭のアーティストに見えるらしい。エラは申し訳なく思う反面、偽とはいえアーティストという肩書に少しばかりの心地よさも味わっていた。
「梁先生も学会が無事終わって、ひと安心ですね」
「ええ、ただ学会の準備で長く家庭を構わずいたので…。罪滅ぼしに今日は妻の使いでアンティックの家具を調達です。しかし…纐纈先生のお姿を見つけて、思わず声をかけてしまいました」
「わたしも、香港を離れる前にもう一度梁先生にお会いできてうれしいです」
「実は…ちょっと伺いたいことがあって…プライベートな時間で申し訳ないのですが…少よろしいでしょうかな?」
「私は構わないのですが…ミス・エライザ。よろしいでしょうか?」
タイセイは同席の女性にお伺いを立てる。もちろん、エラに断る理由もない。
「ええ、どうぞ、梁先生お座りください」
エラは梁裕龍先生に椅子をすすめた。
「纐纈先生が研究されている『網膜神経を形成するマイクロRNA群』についてなんですが…」
いきなり、早口で語り始める梁裕龍先生。
「そのマイクロRNAの一種 『miR-124a』が、脳や網膜といった神経回路の形成と神経細胞の生存に、非常に重要なものであるとおっしゃっていましたよね」