シンデレラの網膜記憶~魔法都市香港にようこそ
 調査の進展があったのか。モエは固唾をのんでドラゴンヘッドの言葉を待った。

「10日前…確かにあんたの息子は香港の市内観光をしていたようだな」
「なっ、なにかわかったの」

 せき込むモエを押しとどめて、ドラゴンヘッドが言葉をつづける。

「中環(セントラル)駅の広場で、あんたの息子を見たものがいる」
「それで…」
「德輔道中を西へ移動して、荷李活道(ハリウッドロード) の店で時計を買ったらしい」
「それから…」
「PMQのレストランで食事をして…どうも、街歩きを楽しんでいたようだな」
「ああ…あの子、小さい時から、ひとりで街をぶらぶらするのが好きだったから…」
「だが…ひとりじゃなかったらしい」
「えっ、どういうこと」
「連れがいた」
「一緒に学会に参加した仲間かしら」
「あんたの息子は結婚しているのか?」
「一度結婚はしたことはあるけど、虫の好かない嫁でね…すぐ離婚したわ。あの子が私にした唯一の親孝行ね。で…なんで?」
「連れは女性らしい」
「あら、誰か日本から連れてきたのかしら…付き合っている女(ひと)はいなかったと思うけど…」
「日本人じゃない」
「まあなんてことでしょう… 海外で女遊びするような子じゃないんだけど…それからどうなったの、行った場所わかったの?」
「そう慌てるな」


 入れ込むモエを楽しむかのように、ドラゴンヘッドはゆっくりとキセルにたばこを詰めると、煙の中に我が身を漂わせるかの如くゆっくりとキセルを吹かした。

「今、その後の足取りを追わせているが…」

 ドラゴンヘッドはモエの顔を正面で見つめながら、言葉を止めた。

「どうしたの」
「いや…この仕事を続けるには…あんたもわしらもそれなりの覚悟が必要になりそうだ」
「どういうこと」
「厄介なな奴らの顔が見え始めた」
「この香港であなたたち以上に厄介な人たちがいるのかしら」

 ドラゴンヘッドはモエの皮肉にも反載せず、話し続ける。

「あんたの息子さんの街歩きを尾行しているやつがいてね…それが中国人民解放軍総参謀部第二部の連中だとわかった」
「誰それ」
「いわゆる中国のCIA(Central Intelligence Agency/中央情報局)みたいなものさ」
「えええっ!」
「いくら日本総領事館が依頼しても、香港警察の捜索が遅々として進まない理由がなんとなくわかってきたよ…」

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