シンデレラの網膜記憶~魔法都市香港にようこそ
やがて、1時間のクルーズも終わり、Star Ferry Pier(天星碼頭)へ戻ると、二人は肩を並べて彌敦道(ネイザンロード)を北上し、iSQUARE(アイスクエア)へ。タイセイは、このショッピングモールの30階にあるルーフトップバー『Eye Bar』へと、エラをエスコートしていった。
ここは、香港の100万ドルの夜景を堪能出来るおしゃれなルーフトップバーで、それなりにお値段は張るものの、カップルには随喜のナイトスポットである。
絶景の夜景を眺めながらも、エラはもうスケッチブックを開くことはなかった。夜景もそっちのけでタイセイを相手に、おシャベリに余念がない。家族のこと、自分のこと。思いつくままにタイセイに話す。タイセイの前では、口から先に生まれた女性らしく振舞えるのはなぜだろう。エラは、しゃべりながらもそんなことを感じていた。一方タイセイは、もっぱら聞き役で、夜景とエラを交互に見ながら、それぞれの美しさを堪能していたのである。
エラがこれまで、どんな環境でどんな人生を歩んだのか知っても、タイセイがエラに感じる美のオーラはなにも変わらなかった。エラの話で、彼女が今は独り身であることを知った。そのことで、なぜか嬉しくなっている自分を感じたが、そんな気分になるのも不謹慎だと自分に言い聞かせ、彼はせわしなくグラスを取って口に運ぶ。
「ところで…タイセイは公園で、私の目を治してくれたでしょ」
「いや、治すって程じゃないけど…」
「いつも、あんな病院で使うようなお薬とかガーゼとか持って歩くの」
「まあね…僕と同じ目のドクターである母から、うるさく言われてね…」
「へぇ…立派なお母さん。ならば、お母さんのお陰でわたしは助かったのね」
「患者さんにとっては立派かも知れないけど…」
「おやおや…また、お母さんをけなすのですか」
もう同じ失敗はしたくない。今度は失言しまいと彼は口をつぐんだ。
「タイセイは困ったときは、いつもそんな顔をするんですね」
「顔って?」
「口をとがらせて…頬を膨らませて…」
そんなことは誰にも言われたことがない。自分にそんな癖があったのかと驚いたが、たった12時間ではあるが、癖を指摘するほど自分に関心を持っていてくれていたのかと嬉しくもあった。
「人を愛そうとしない人は、愛されていることにも気づかないものですよ」
ここは、香港の100万ドルの夜景を堪能出来るおしゃれなルーフトップバーで、それなりにお値段は張るものの、カップルには随喜のナイトスポットである。
絶景の夜景を眺めながらも、エラはもうスケッチブックを開くことはなかった。夜景もそっちのけでタイセイを相手に、おシャベリに余念がない。家族のこと、自分のこと。思いつくままにタイセイに話す。タイセイの前では、口から先に生まれた女性らしく振舞えるのはなぜだろう。エラは、しゃべりながらもそんなことを感じていた。一方タイセイは、もっぱら聞き役で、夜景とエラを交互に見ながら、それぞれの美しさを堪能していたのである。
エラがこれまで、どんな環境でどんな人生を歩んだのか知っても、タイセイがエラに感じる美のオーラはなにも変わらなかった。エラの話で、彼女が今は独り身であることを知った。そのことで、なぜか嬉しくなっている自分を感じたが、そんな気分になるのも不謹慎だと自分に言い聞かせ、彼はせわしなくグラスを取って口に運ぶ。
「ところで…タイセイは公園で、私の目を治してくれたでしょ」
「いや、治すって程じゃないけど…」
「いつも、あんな病院で使うようなお薬とかガーゼとか持って歩くの」
「まあね…僕と同じ目のドクターである母から、うるさく言われてね…」
「へぇ…立派なお母さん。ならば、お母さんのお陰でわたしは助かったのね」
「患者さんにとっては立派かも知れないけど…」
「おやおや…また、お母さんをけなすのですか」
もう同じ失敗はしたくない。今度は失言しまいと彼は口をつぐんだ。
「タイセイは困ったときは、いつもそんな顔をするんですね」
「顔って?」
「口をとがらせて…頬を膨らませて…」
そんなことは誰にも言われたことがない。自分にそんな癖があったのかと驚いたが、たった12時間ではあるが、癖を指摘するほど自分に関心を持っていてくれていたのかと嬉しくもあった。
「人を愛そうとしない人は、愛されていることにも気づかないものですよ」