好きなんだから仕方ない。
暫くの沈黙が俺たちを包んだ。声を出せば時が進んでしまう気がして嫌だったんだ。

「・・・どうか、なさいましたか?」

「いやぁ。俺、エイミア様の事を恋愛対象として見た事は無いんだ。ただ、仕える者として本当に。異性としてじゃなく一人の人として好きだったんだよな」

「・・・私は結局エイミア様を傷付ける事しか出来ませんでした。守ろうと頑張っていたのに。空回っているだけで助けられていたのは私の方で。・・・それが情けなくて仕方ないっ」

先に口を開いたのはクロエラだった。沈黙に耐えられなかった訳じゃない。変えられない現実に耐えられなくなったんだ。
俺はこんな時なのに。こんな時だからこそ、彼女の話をした。お前の中にいる彼女は俺の中ではこんなに凄い人だったんだと知ってほしかった。他の人の中にもちゃんと生きているんだと知ってほしかったんだ。
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