一匹狼くん、 拾いました。弐
 インターホンを押すと、速攻でドアが開いた。

「仁、えっと聞きたいことは色々あるんだけど……康弘さんとは話した?」

部屋の中に入るように促してから、結賀は聞いてくる。

「話した。喧嘩した。鈴音がいたから。泊めて」

「ものすごい説明雑だな? んーいいけど、三者面談は頼んだ?」

「……頼んだ」


 結賀は俺の頭を撫でる。

「そうか、ならよかった。飯は食べてない?」

「うん。焼肉屋から逃げてきた。歩いて」

「ええ? なんで焼肉から……いや康弘さんと鈴音からか。妹だよな。康弘さんの連れの子」

 俺の腕を触って尋ねる。皮が剥けているとわかったのかもしれない。

「鈴音が母さんから香水もらったって。しかもそれ、母さんが昔毎日つけてた香水と同じ匂い」

「仁、その腕これ以上触ったら血が出るから。……治ってないな。不安定になったら煙草吸ったり、自分や物を傷つけようとしたりすんの」

 無意識でまた触っていたのか、皮がさっきよりも剥けている。

「あ……ごめん」

 結賀は首を振る。

「いいよ、俺は怒んないから。怪我する前に来てくれたし。はぁ……ミカいなくてよかったな? そのクセ知られたくないんだろ? 今日は葵のところ泊まるって、あいつ」

 あぁ、そうなのか。

「ハッ。いつもなら裏切り者の家かよって言うのにな。どんだけ落ち込んでんだよ」

 背中を撫でられた瞬間、壊れたみたいに涙が溢れた。

「ええっ? 俺地雷踏んだ?」

「ちげ……情緒壊れてる」

 結賀は俺を抱きしめる。

「そうだな、これ拒否しないくらいだもんな。仁、顔あげて」

「ん、あぁ」

 抱擁を拒否しない俺の首を舐めて、結賀は笑う。ぼやける視界の中で見える顔は艶があって、妖しさに満ちている。

 壊れた心を癒すみたいに舐められる。誰かに舐めてもらえるくらい、大切にされていることに安心する。歪んでいる。愛の受け取り方が。

 俺の心は壊れている。壊れていないように見えても、何かがきっかけでぐちゃぐちゃになって、この有様だ。

 それでも結賀は俺に会うたびにその心の傷を癒して笑うんだ。明日も生きろよって。


 俺がお前なしじゃ、いつか自殺するかもしれないとわかっているからこそ。

< 231 / 240 >

この作品をシェア

pagetop