一匹狼くん、 拾いました。弐
「何食いたい? 葵の手料理少し持って帰ってきたから、父さんも、もう飯食べてるんだよ。でも仁の分ない……おい、どこ行くんだよ?」

 結賀の言葉を無視して、俺は歩き続ける。

「おい仁、足止めろって! さすがに未成年飲酒は見逃さな……は?」

缶ビールを野菜室から取り出して、片手で粉砕してしまう俺を見て、結賀は首を傾げる。

「ごめん、物に当たりたかった。イライラなくならなくて」

「いやいいけど、飲まないなら先に言え。おかげですごい焦った」

 俺の手を撫でてから、結賀は缶ビールの中身を流しにこぼす。

「ごめん。片付けありがとう」

「別に流してるだけだし。缶は自分で捨てろよ?」

 キッチンの隅にあるゴミ箱に缶を捨てて、辺りを見回す。

「おじさんは?」

「さっき寝た。家帰ったら泣いててさ、結賀も俺を捨てるのか、捨てないで、そばにいろって。……どっちが子供なんだろうな。言われなくても捨てないし、捨てられないのにさ」

 作り笑いをしている。俺、結賀は父親のことで大変かもしれないってわかっていたのに。なんでこんなところに来て、結賀の好意に甘えているんだよ。
 
「結賀、首」

 赤くなって、血が出ていた。

「え、あー頼むから捨てないでくれって懇願されならがら、引っ掻かれて絞められた。死にそうになってたら、俺が泣いてんの見て正気取り戻して、すごい謝ってきたけど」

 首を触りながら笑う。悲しそう。でも嬉しそうにも見える。

「軟膏どこ」

 歩きながら探す。洗面所のタンスを開けたら見つかった。あと包帯と消毒もか。

「っ、あっ、い……う」

 ティッシュに消毒をこぼして首に当てると、結賀は痛そうに呻く。

「結賀……別に親だからって死ぬまで面倒見る必要なんかない。逃げたかったら逃げて」

「嫌だ、父さんは俺のだ。それに嬉しいじゃん。必要としてるから傷つけてるんだから」

 でも必要としているだけなら傷つけないんだぞ?

「縛り付けたいとも思ってるから、そういうことしてんだぞ」

「わかってる。でも俺も父さんを縛っておきたい。俺が急にいなくなったら、母さんが駆け落ちした時のことを思い出して、捨てられるって怖がってほしい」


 縛らなくたって、愛を感じることもできるのに。それでも捨てられたことがあるから、縛っておかないと不安なのかもしれない。

 首をあげさせて、赤くなっているところに軟膏を塗っていく。

「……普通に愛し合えたらよかったな」

 結賀の言葉を聞いて、軟膏を塗る指が止まる。

「本当にな。俺も結賀もミカも」

 ただ親に恵まれなかっただけだ。でもたったそれだけで、こんなことになるなんて思っていなかった。

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