一匹狼くん、 拾いました。弐
「結賀?」

 寝室のドアが開いて、おじさんがダイニングに入ってくる。

 足取りが妙にふらついて、おぼつかない。

「と、父さん起き……え。ちょっ」

 俺の目の前にいた結賀のそばへ行き、おじさんは結賀の腕を掴む。

「な、なんで急にいなくなる……隣にいるって言ったのに」

 力の込め方が尋常じゃない。掴まれた腕に指の跡がくっきり浮かぶ。

「いっ? と、父さんや、嫌だ……いったい。……う、あ……お、折れる」

 声を聞いて、慌てておじさんと結賀を引き離す。

「おじさん!」

「あぁ……仁くんか。私はまた……すまない、結賀」

 赤くなった手を見て、おじさんはタオルを濡らして、結賀のもとへ持ってくる。

「ん、へーきへーき。なんでもないって、こんなの」

 なんでもないわけない。

 タオルを受け取っている結賀の手が震えている。
 濡れたタオルで冷やしているだけなのに、なんで。

「……結賀、ちょっと来い」

 脱衣所に結賀を連れていって、そっと腕を持ち上げる。

「いだだだだっ?」

 顔を青くして、油汗を流しながら叫んでいる。

「やっぱり。折れてるだろ」

 罰が悪そうに結賀は目を逸らす。

「言うな、父さんには」

「言わない。でも寝たら病院な? 夜間診療探すから」

 俺を見て結賀はフニャッと笑う。結賀の瞳から涙が溢れる。

「本当はさっき……少し父さんが怖かった。いつまで不安定なのかなぁ、父さん」

「おばさん探したい?」

 結賀の母親はどこにいるのかわからない。でも探さないと、おじさんとおばさんが会って話をしないと、この鬱は治らないかもしれない。

「いや。俺は父さんといるから。母さんはいらねぇよ」

 結賀の笑顔が痛々しくて、言葉が溢れる。

「結賀……でも故意じゃなくても、それじゃあ虐待」

「っ! 言うなって! ……そんなの俺が一番よくわかってる」

 結賀はぎゅっとタオルを握りしめる。

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