一匹狼くん、 拾いました。弐
「ダイニング戻るか。あんまり遅いと不審に思われる」

脱衣所から出ようとした俺の手を、結賀は急に握ってくる。

「どうした」

「ごめん。……本当は離れないといけないのわかってる。俺の父さんへの愛は依存で、純愛じゃないことも。でも俺、父さんといたい」

 握られている手が痛い。想いが伝わってくる気がする。

「別にそう思うことを責めねぇよ。親とは一緒にいたいたほうがいいし。ただ……今回は故意じゃないからある意味事故だ。でも火傷させられたり、腕縛られたりしたら取り返しつかないんだよ」

 嫌な予感がする。すまないと謝れば全て解決するのは、小学生までだ。

 首締めに骨折と来たら、次はなんだ。二度あることは三度ある。

「……そうだよな」

「共依存はいつか身を滅ぼす。それを忘れるなよ、結賀」

 結賀の手を撫でながら俺は呟く。
 結賀は包帯が巻かれた俺の指を触る。

「こんなふうにデカすぎる愛の大きさに戸惑うくらいなら、嫌いになれるくらい凄惨に殴られた方が良かった」

 結賀の言葉を聞いて、目を見開く。

「現実はそんな簡単じゃねぇよ。思い通りになるのは、自分で作った料理だけだ」

 折れてない方の結賀の手を握り、俺はダイニングに戻った。

「はは。自分で作った料理だけか。そりゃそうだ」

 結賀は笑いながら、おじさんに近づく。から笑いだな、あれは。

「父さん……お腹空いてない? 喉は乾いてる? 薬飲んどけば?」

 妙に喋りが早口だ。演技ド下手。いつも通りを装えていない。

「あぁ、そうだな。結賀手、痛くないか」

 心配そうにおじさんは尋ねる。

「え。あー少し痛いかな。あとで病院一応行ってくる」

 結賀を見ておじさんは頷く。

 あ、なんだ。病院行く話したら騒ぐかと思ったけど、違ったか。じゃあきっと、力を入れすぎた自覚はあるんだな。

 冷蔵庫を開けて中を見回す。ヨーグルトあった。
ナタデココもあったので、はちみつとヨーグルトと水を切ったナタデココを混ぜる。

「おじさんこれ、薬の前に食べてください。泊まってるのに簡易ですみません」

 できたものを渡して、おじさんに軽く頭を下げる。

「いやそんな、ありがとう」

 首を振って笑ってくる。笑顔は返せない。

 いつも俺が急に来ても、何も言わないでいてくれるおじさんには感謝している。でもそれと、結賀への暴力を許すかは別の話だ。いつまでも寛容ではいられない。
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