183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
動悸はすっかり収まり、心に余裕ができると、仕方ないから恋人ごっこに付き合ってあげようかという気になる。

柊哉が言った台詞は、オフィスラブ漫画のひとこまだ。

若き俺様社長とウブな女性秘書の恋。

今、柊哉がしているように、社長が腕にヒロインを閉じ込め、口説いているシーンである。

それに対してヒロインは、こう言うのだ。

「そんな優しい言葉をかけないでください。我慢できなくなります。私は……社長が好きなんです!」

漫画では泣きながらの返事であったが、女優じゃないので、そこまでは演じられない。

それでも健気なヒロインを真似て、秘めた想いを一大決心で告げた……という演技をしてみた。

柊哉はなぜか驚いたように固まっている。

その頬が色づいて見えるのは、気のせいだろうか。

彼は漫画のヒロインの名ではなく、「真衣……」と呼びかけた。

口の端がゆっくりと嬉しげに弧を描こうとしているが、なにかに気づいたように動きを止めると、直後に眉を寄せた。

「俺、まだ社長じゃないぞ」

「知ってるよ。ほら、早く次の台詞言ってよ。せっかくのってあげたんだから」

「……忘れた」

< 115 / 233 >

この作品をシェア

pagetop