【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)
「背中を見せて、シュテル」
「うん」
ソファーのアームにシュテルは腰かけて背中を見せる。もうずいぶん良くなった。最近は薬ではなく、保湿剤を塗っているのだ。傷跡が残りにくくするためにと、マレーネ姫が送って来たと言っていた。
ツンとした独特の森の香りのするオイルだ。でもなんだか懐かしい。子供の頃の幸せな時間を思い出させる香りだ。針葉樹の多いアイスベルクの森の匂いみたいだと思った。
それを手のひらに伸ばして、シュテルの背中に塗る。確かにこれは自分では塗れないだろう。
そっと背中に触れれば、シュテルは肩を震わせる。いつものことなのに慣れないようで、ビクビクする背中を見るのは少し楽しい。私だけが知っているのだ。
薄く盛り上がった傷跡に指を添わせる。
あまり目立たなくなってきたけれど、この傷が私を守ってくれたものだと思うと、胸がいっぱいになる。申し訳ないと思う罪悪感と、それを超える嬉しさがあって、その嬉しさにまた罪悪感を覚える。