独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

「そろそろ、風呂入ろう? 一緒に」

 息のかかる距離で、少し余裕なく掠れた低い声が囁く。きっと、ただの入浴では済まない。そう予感させる、ケモノみたいな瞳と視線が絡む。

「……うん。いいよ」

 心臓が胸を突き破りそうなほどドキドキしているが、私もそうしたかったのが本音だ。

 百万回のキスもいいけれど、やっぱり、キスだけではもう足りないの。

 互いに火がつきそうな欲情を堪えながら、浴衣を脱がせ合い、窓の外へ。

 庭に張り出すようにして作られた露天風呂の浴槽は、やわらかな風合いの檜製。立ち昇る湯気からは、胸のすく木の香りがした。

 木桶でかけ湯をしてから、彼と手を繋いでお湯に身を沈める。そしてじんわりと体が温まった頃、湯煙の中でキスを交わし、濡れた肌と吐息を重ねた。



 ――その夜、私は夢を見た。誰かが〝愛花〟って、何度も私を呼ぶ夢。

 その人の顔や姿は見えないのだけれど、私自身とっても会いたい人のような気がして、真っ暗闇の中を走り回ったのだけれど、結局は会えなくて……。

「愛花、大丈夫か?」

 愛しい人の声で目を覚ますと、目尻が少し濡れていた。体を起こして辺りをキョロキョロし、ようやく思い出す。ここは、そうだ……湯河原の温泉旅館。今のは夢か。

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