独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
俺は瞳に浮かんでいた涙を誤魔化すように何度か瞬きし、愛花の傍らに座る。
「どう? 気分は」
「うん。今は、落ち着いてる」
「頑張ったな、本当に……」
なにげない会話を交わしているだけなのに、またしてもじわりと瞳が潤んできた。上を向いても鼻を啜っても、誤魔化せない。次々新しい涙が湧いてきて、俺は泣きながら苦笑する。
「ごめん。オペの最中は冷静でいられたんだけど……」
震える声で言いながら、愛花の手を両手で包み込むようにぎゅっと握り、彼女の細い指先を自分の額に押し付けた。
医者として、人の死には何度も立ち会ってきたはずなのに……この愛しい温もりが、決して当たり前じゃないこと。本当の意味で、今ようやくわかった気がする。
「愛花」
揺らめく視界に彼女を映し、大切に見つめながら、俺は口を開く。
「元気になったら、結婚式を挙げないか?」
「結婚式……?」
「ああ。俺、今回のことで改めて、自分が愛花を失ったらどれほど困るのか……どれほど愛しい存在なのかってことに気づいた。だから、落ち着いたらでいい。みんなの前できちんと愛を誓いたい。愛花の晴れ姿をご家族に見せたいし」
「純也……」
愛花の大きな瞳になみなみと涙が溜まり、ポロっと頬を伝って枕にこぼれる。それからゆっくり目を閉じて頷き、震える声で「ありがとう」と言った。