独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 二歩ぶん前に出ていた私が振り返った先では、小田切先生は眩しいものでも見るように目を細めて私を見つめていた。しかしあまりに長い間視線を注がれ、居心地が悪くなってくる。

「小田切先生?」

 怪訝な顔で問いかけたら、彼はハッとしたように目を見開き、苦笑しながら私の横に戻ってきた。オレンジ色に染まる街並みを、再び並んで歩きだす。

「ごめん、愛花先生があんまりカッコいいから感動しちゃって」

 ……なんですかそれは。

「お世辞はいいです。それより疲れてるんじゃないですか? なんかぼーっとした顔してます」
「いや、平気。それより、ふたつ目の質問いい?」
「どうぞ」

 なんてことなしに促すと、小田切先生はゴホンと咳ばらいをひとつして、少々気まずそうに言った。

「……子ども。めっちゃ期待されてるけど、どうする?」

 思わず、どきりと鼓動が跳ねた。私の知らない間に、父か祖父が彼に言ったのだろうか。

 だけど、どうするって言われても……どうしようもないでしょうよ。

「頑張ってるけどできない、という(てい)にするしかないかと」
「でも、お父さんたちはそのために愛花先生に結婚してほしかったんじゃないの?」
「そりゃそうですが……私たち、その、そういう行為をする予定はないわけで」

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