独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 なにそれ。こっちに断る権利はないわけ……?

 強引な彼の態度にムッとして、先に帰ってしまおうかなと考えながら廊下に出る。そして、関係者用の人気のない階段に続く、重い金属の扉を開けた瞬間だった。

「やめてください、こんなところで……」
「こんなところでしか会えないんだから、仕方ないだろう」
「もう……蓮見せんせ……んっ」

 見慣れた白衣の男性が、見慣れたスーツ姿の女性を壁に押しつけて、サカりのついた獣のように、濃厚なキスを交わしていた。辺りに響くのは、生々しいリップ音に、荒い息遣い。

 いったい病院でなにをしているんですか……蓮見先生。黒瀬さん。

 私はげんなりしながら、その場に立ち尽くす。

「あ、……ねえ」

 先に私の姿に気づいたのは黒瀬さんの方で、〝見られてる〟と合図するように、腰に添えられた蓮見先生の手をそっと押しのけた。

 振り向いた蓮見先生は、恥ずかしい場面を見られたというのに飄々とした顔だ。

「ああ、愛花先生か。お疲れさま」
「ふふっ。私たちのこと、超軽蔑してるって顔」

 クスクス笑う黒瀬さんは、今日も完璧な髪型、メイク、絶妙に短いタイトスカート、そしてなにやらいい匂いのする香水で、無駄に色気をまき散らしている。

 小悪魔っていうのは、こういう女性のことを言うのだろうな。

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