独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

「これ、差し上げます。先生って、女としての潤いが足りなそうだから」

 ……嫌みですか。まぁ、黒瀬さんに指摘されたらぐうの音も出ませんが。

 流れでチューブを受け取り、うれしくはないが一応「ありがとうございます」と頭を下げる。

 これは化粧品? 確かにスキンケアは適当で、肌は乾燥気味ではあるけど……。

「じゃ、私はこれで」
「お疲れさまです……」

 これからまた別の医師を誘惑しに行くのか、黒瀬さんは長い髪をかき上げ、はつらつとドアの向こうへ消えていった。

 私はようやく階段を下り始めながら、もらったチューブをしげしげと眺める。

「ヒアルロン酸配合、潤潤(うるうる)。お肌に優しい弱酸性潤滑ゼリー……」

 潤滑ゼリー? その見慣れない商品名に嫌な予感がして、裏面の詳しい説明書きを見る。すると、そこに【憂鬱な性交痛とサヨナラ】というあからさまな一文を発見し、かぁっと頬が熱くなった。

 潤いが足りないって、そういうこと!? あの小悪魔MR、ホント余計なお世話……! こんなのもらってどーしろって言うのよ!

 私はチューブを自分のバッグの奥深くにズボッと突っ込み、足早に階段を下りていく。

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