独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 一階の通用口を出る直前、小田切先生を待つかどうか一瞬迷った。しかし黒瀬さんのせいで気分が悪いので、無視して帰ってしまえと自動ドアをくぐろうとしたその時だ。

「愛花先生!」

 少し離れた場所から小田切先生の声がしたと思ったら、彼が焦った様子で駆け寄ってきた。乱れた呼吸を整えながら、私を軽く睨む。

「あーよかった間に合って。今、帰ろうとしてたでしょ」
「あ、えーと。……はい。すみません」

 帰ろうとしていたのは事実なのでぺこりと頭を下げると、小田切先生はくしゃっと相好を崩す。

「いつもながら正直だなぁもう。ま、いいや。お腹すかない?」
「……まぁ、それなりには」
「じゃあメシ行こう。なにか苦手なものある?」

 小田切先生と食事に? たしかさっきは『一緒に帰ろう』と言われただけだったような気がするんだけど……ま、いいか。

 黒瀬さんのせいで変なエネルギーを消費したせいか、実はいつもよりお腹がすいているのだ。今のところ近くにナースの姿もないようだし……。

「とくに、苦手なものはありません」
「なら、店は俺が決めてもいい?」
「はい。病院関係者に会わない場所なら」
「なるほど、どこがいいかな……」

 話しながらドアを出て、小田切先生とつかず離れずの距離で歩きだす。色々と疲労の溜まっている心と体に、まだ少し冷たい春の夜風が心地よかった。

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