独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 用心深い愛花先生は、個室を出るだけでなく店の外にまで出て、なおかつ狭い路地裏に俺を引っ張っていった。

 古びた街灯に照らされたそこは、ガスタンクや瓶ビールのラック、室外機などが雑然と置かれていて、まったく人気(ひとけ)がない。

「どういうつもりですか?」

 愛花先生が、向き合った俺を見上げて厳しく尋問する。

「どういうつもりって?」
「だから……あんなの、まんま私の人物像じゃないですか! 容姿とか、同業者とか、下町育ちとか!」

 憤慨した様子で指折り数える彼女を、俺は自分の首の後ろをゆっくり撫でながら諭す。

「大丈夫だよ、あれくらい」
「なんの根拠があってそんなお気楽なことが言えるんですか!」
「根拠ねえ。……っていうか、そんなことより愛花先生は別のこと心配した方がいいと思うけど」
「なんですか? 別のことって」

 キョトンとする彼女の後ろにある壁に、トン、と手を突く。そのまま顔を近づけ、息のかかる距離で告げた。

「こんな暗くて狭いところに連れ込まれたら……男は誘われたって、勘違いしちゃうよ?」

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