小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
 王太子の部屋の前には護衛の近衛兵がいた。ということは中にレオがいるのだろう。私は愛想笑いを浮かべ、「レオ様にお目通りを願いたいのですけれど」と、さっきまでは捨てまくっていた令嬢らしさをかき集めて言った。
 近衛兵は顔を見合わせたが、私がレオの婚約者だということは知れ渡っているので、お伺いをたてに言ってくれた。

「リンネが来たって?」

 近衛兵が伝えると、すぐにレオが出てきて、私を中に入れてくれた。

「ごめんね。突然来て」

「リンネならば構わないが、珍しいな。しかも制服のままで。どうした?」

「うん。あのね……」

 私はあたりを見回す。近衛兵はふたりとも扉前の護衛に戻ったので、部屋の中には私とレオのふたりきりだ。年頃の男女が個室でふたりきりになるのは褒められたものではないが、私達は婚約者という間柄だからか、誰も気にはしていないようだ。

 これ幸いと、私はレオのシャツのボタンに手をかける。

「脱いで」

「は?」

 レオが顔を真っ赤にして目を剥く。まるで襲われる直前の女の子のように自分の腕で胸を守るように自分を抱きしめ、信じられないものを見るような目でこちらを見つめる。

 ……ん? 待って違う。誤解だ。

「そういう意味じゃなくて。腕を見せて欲しいの」

「腕?」

 今度は真剣な顔になる。鬼気迫る様子の私をじっと見つめ、「どうしたんだ、急に」と怖いもの見たさ半分な様子で問いかける。

「いいから見せて。なんでもないなら見せられるでしょ?」

 レオには、回りくどい説明よりも、本当に伝えたいひと言が効く。とても嫌そうな顔で、ため息をついた。

「……どこで嗅ぎつけてきたんだ」

「いいから、早く。でないと剥ぐよ」

「おまえは少し恥じらえ!」

 面倒くさいので服を脱がそうとしたら、凄い瞬発力でよけられた。

 別に上半身の裸ぐらいなら、前世の部活のときに散々見たから、こっちは気にしてなどいないというのに。
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