強引な無気力男子と女王子
 日葵は、なんと三回もカレーをおかわりしていた。
 その小柄で華奢な体のどこにカレーは消えていくんだよ‥‥‥。
 少し羨ましい。
 「ねぇねぇ真紘、知ってる?」
 「何を?」
 日葵をずっと見ていた私の顔を覗き込んで、日葵はそんなことを言った。
 「この合宿場のジンクスだよ!」
 「ジンクス?」
 いかにも女子が好きそうな話題だ。
 「このキャンプファイヤーをね、手を繋ぎながら見ていた二人は、将来結ばれるんだって!」
 「へえ」
 一体どこからそんな情報を仕入れてくるのか。
 「興味ないの〜!?」
 「興味っていうか‥‥‥別に将来一緒になりたいと思う人もいないし」
 そう言うのって、普通恋人同士でするんじゃないの?
 駿樹さんっていう彼氏がいる日葵には関係ありそうなジンクスだけど、私には無関係。
 どうせなら、大学受験で苦労しない、的なジンクスが良かった‥‥‥。
 こんなこと言ったらお兄ちゃんに怒られそうだけど。
 お兄ちゃんは「受験は神頼みするようなものではない!」という揺るがない考えを持っていて、大学受験の前にも、神社などへ祈願はしにいかなかった。
 「瀬戸悠理は?」
 「え!?」
 どこか違う世界へ行っていた私を、日葵はいとも簡単に現実世界に引き戻した。
 「誘えばいいじゃん!」
 あからさまに反応してしまった私を見て、日葵はニヤニヤ笑っている。
 「ちょっと、何勘違いしてるのか知らないけど、私と悠理はそんなんじゃないから」
 「えぇ〜」
 日葵は私の否定の言葉を聞いて、不満そうだ。
 だって、本当にそんなんじゃないし。
 私と悠理が付き合うとか、天地がひっくり返ってもありえない。
 それに‥‥‥悠理には「百華」って呼ばれてた女の子みたいな子がお似合いだし。
 「まあいいや。じゃあ、私駿樹のところへ行ってくるからー!」
 いつのまにか、日葵と雑談していたらキャンプファイヤーの準備は終わっていた。
 日葵は軽やかに私から離れて、駿樹さんのもとへ走っていく。
 木に、ぼっと火が付く。
 みんなからは歓声が上がる。
 私は、楽しそうに笑って、火の近くに集まる子達の輪から、少し離れたベンチに腰を下ろした。
 女子が集まってこないかな、なんて心配していたけど杞憂だったみたいで、私は静かにキャンプファイヤーを見ることが出来ていた。
 日葵、駿樹さんと合流出来たかな。
 出来てなくても、駿樹さんが見つけ出すか。
 
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