水曜の夜にさよならを
 樹はスマートフォンをテーブルの上に置いて、コードにじゃれつくモナカの姿を見せてきた。模様が同じだからか、遊ぶ姿はムギとそっくりだ。中学のときに何度か行ったことがあったが、樹の部屋はずいぶん変わった。

自作パソコンの部品と、ゲーム機器がごちゃごちゃになっていた、機械だらけの部屋はすっきりと片付いている。何も変わらない気でいたけれど、もう二十七。樹の言った言葉を改めて意識させられる。

「そういえばね、また最近、直哉とたまに会うんだよ」
「へえ、元気そうだった?」

「心配しなくても、元気元気。よく飲むし、うるさいし、人の話は聞かないし。あれで営業成績がいいなんて、どうなってるんだか」
 そっか、と笑い流して樹はわたしに仕事の話を振ってきた。以前のような心地の良い時間にほっとする。

 しばらくそうして飲食を楽しんで、ふと会話が途切れたとき、樹は話題を変えてきた。

「最近、キレイになった?」
「そう?」

 ニキビだけではなく肌が変わってきているのはたしかだ。それに気づいてくれたのだろうか。わたしが密かに喜びを感じていると、樹はなぜか眉根を寄せて、口元に弱い笑みを浮かべた。
< 15 / 22 >

この作品をシェア

pagetop