水曜の夜にさよならを
「別に気を遣って、おれのこと誘ってくれなくてもよかったのに」
「え?」

「好きな人ができたんだろ。いつもそうだから、すぐわかるんだよ。たわいのない話してても目を輝かせててさ。おれが何年友だちやってると思ってんの」

「好きな人って、誰のこと?」
 わけがわからずに、わたしは眉をひそめた。

「それをおれに訊くか」
 自嘲気味にそう言って一呼吸し、「直哉じゃないの」と視線を落とした。

「あいつ優しいよね。モテる分浮気を疑われやすくてなかなか長続きしないけど、付き合った子のことはいつも大事にしてるし。短気なとこもあるけど、ほんとうにいいやつだと思うよ」

「いいやつなのは、知ってるけど」
 わたしの好きな人は、直哉じゃない。

「樹と会えなくなって、いっぱい考えた。それで、樹が側にいたからわたしはいつもわたしでいられたんだって気がついて。言われたことちゃんと受け止めなきゃだめだって思って、肌荒れを治したんだよ? 直哉じゃないよ。わたしはずっと樹に会いたかったのに」
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