水曜の夜にさよならを
「ねえ、外って?」
「パトロール」

 そう言われると断れないことを、樹はよく知っている。わたしたちは家を出て、公園に向かって歩き出した。

「あり得ないと思ってたんだ」
 道すがら、樹はぽつりとつぶやいた。

「ずっとおれのことなんて眼中にないと思ってたんだよ。友だちというより、それ以下の存在。直哉が来られなくなってから、美晴は髪もメイクも構わなくなっていったし」

「それは、ごめん。油断してたの」
「油断?」

「樹ならどんなわたしでも大丈夫って。あとは、そういう対象として見てもらえてるって、思わなかったっていうか。だっていつもわたしに喋らせてばっかりで、樹って自分のこと何も言わないんだもの、ほんとは二人でいるのが嫌なのかなって思ってたくらいで」

「自分の話をするよりも、好きな子の話をたくさん聞きたいと思うのは当たり前でしょう」
 好きな子、という言葉に反応して、とたんに頬が熱くなっていく。

こんなとき、メイクがあれば少しくらいは誤魔化せたかもしれないのに、素肌のままじゃだめだ。あふれ出しそうな嬉しさを隠すこともできない。
< 20 / 22 >

この作品をシェア

pagetop