水曜の夜にさよならを
「美晴には連絡いってないんだ? 出張でしばらくこっちにいないから、そのうち顔をだす、って言ってたけど」

「それって基本欠席ってこと? この前は大学の友だちと飲み、更に前は仕事の付き合いの飲み、あとなんだっけ。ずっと来てないし、もうクビだよ」

「直哉も色々忙しいんでしょ」
「最近いっつもわたしと樹だけ」

 向かい側に腰を下ろして、今日も一日おつかれさまでした、と乾杯した。口元にグラスを運ぶと、鼻先を越えてまつげにまで炭酸が弾けて、わたしは目を瞑る。蒸し暑い日の憂鬱も、この一口で飛んでいく。

「そういえば、モナカの脚はどうだった?」
 わたしはずっと気にかかっていた、樹の猫のことを訊いてみた。先週、仕事から帰ったら後ろ足を引きずっていたから、病院に連れて行くと言っていた。

「捻挫。脚を休ませるのにゲージに入れるように言われてる」
「骨折だったらどうしようかと思った。とりあえずよかったねえ」

「モナカももう十二才だもんな。人間でいうと六十四だっけ? 昔ほど動かなくなってきたし、これからは少し気をつけてやらないと」
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