水曜の夜にさよならを
「よし、ダンボールなーし」
 お疲れさまでした、とわたしはねぎらいを込めて樹の肩を叩く。

「そうそう捨て猫はいないと思うけど」
「でも、いるかもしれない。世の中全部の捨て猫は助けられなくても、せめてこの場所だけでもわたしたちが守れたらなって。地元だし、できることはやりたいじゃない」

「もし昔みたいに六匹の仔猫を見つけたら?」
「そしたらペット可のアパートを借りてわたしたちで管理する。お互い実家暮らしだし、部屋をひとつくらい借りてみるのもいいかもよ」

「マジか」
 樹がめずらしく声を立てて笑った。

 公園を出て、歩き慣れた住宅街を抜けていく。坂道をショートカットするための長い階段を登り切ったその先でお別れだ。

「いつも送ってくれてありがと。それじゃあね、樹」
 また来週、そう言おうとしたときに「あのさ」と彼がやわらかに言葉を被せてきた。

「今日でもう終わりにしない? ねこの会」
「え?」

 突然何の冗談を言い出したのかと樹の目を見つめるが、彼は視線を逸らすこともなく、真っ直ぐわたしを見つめ返してくる。
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