水曜の夜にさよならを
 家に着くと、家族を起こさないようにそっと扉をあけて、電気も点けないまま二階の自室に上がった。ベッドに倒れ込むと、目のふちに涙が滲んできた。まさか、樹からねこの会を終わりにしようと言われるなんて、思ってもいなかった。

「何だったんだろう、十二年も続けてきたのに」
 直哉があまり顔を出せなくなってからも、樹とふたりで、毎週たくさん話をしてきた。そんな時間を楽しいと思っていたのはわたしだけだったのだろうか。

 元々ねこの会は、共通点のない人たちの集まりだった。わたしは熱血スポーツ少女で、直哉は見るたびに違う彼女を連れている女好き、樹は根っからのゲーマーだ。

 普通に暮らしていたら仲良くなれない友だちと、猫を通じて集まれることが楽しくて、いつの間にか側にいるのが当たり前になって、忘れていたのかもしれない。

ひとりでいつまでも熱くなっていて、気づいたらみんなと温度差が出来ていて、自分だけがそれに気づかない。わたしには昔から、少なからずそういうところがあったのだ。

 樹はあまり自分の意見を言わないやつだ。ほんとうはただずっと、疲れさせていたのかもしれない。
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