青いスクラブの王子様。~私が惚れたのは、一等級の外科医だった件~
暗闇から徐々に露わになる人影を捉え、思わず後ずさりそうになる。
つかつかとこちらに向かってくると、女性は私の前に立ちはだかった。
次の瞬間、聞いてはいけない気すらする〝バキボキ〟という音とともに、浪川の悲鳴が上がった。
「痛い!いででで!離してくれぇ〜!」
「うっさいわね。黙りなさい。あんたのことは知ってるわよ。童顔好きの変態って有名で、警察の方々が探してるのよ?」
「な、け、けけ、警察!?」
間抜けな声に続いて、衝撃を受ける。
有名だったなんて、知らなかった…。
「さっき警察呼んだから、すぐにくるわ。」
「くそっ……あっ…!お前、あいつの女じゃないか!
おい、みやび、こいつはあの男の婚約者だぞ〜!」
あの男って、テンちゃんのこと…?
テンちゃんの婚約者……?
え…じゃ、じゃあ、私を助けてくれたこの逞しい…星莉さんが、彼の…婚約者…?
いやでも、こんな男の言うこと信じられない…
浪川の言葉にピクリと反応した星莉さんが、こちらをゆっくりと振り向いた。
その表情はやや曇り気味で、浪川の言っていることは正しいと証明された気分になった。
「…あなたが……」
浪川の腕は捻り上げたまま、私を見つめる星莉さんが何か言いかけたとき、サイレンの音が近づいてきて、音が止んだと同時に私たち三人は懐中電灯に照らされた。
浪川は抵抗する間も無く、警察に連行され、私と星莉さんの安否確認を終えると、彼らは慌ただしく去っていった。
ポツンと路地に残された私たちは、気まずい雰囲気のままとりあえず歩き出し、街灯の側に移動する。