青いスクラブの王子様。~私が惚れたのは、一等級の外科医だった件~


―――



大好き。

何度も心の中で呟いた言葉だけど、声にして彼に一度でも伝えたことがあっただろうか。


左下の欄に判を押せば、もうテンちゃんに会えなくなる書類を目の前に、今更気がついた。


一昨日はあれから彼に仕事が終わらないと電話で謝り店を出てもらい、私はそのまま帰宅した。

星莉さんもベリーヒルズビレッジのレジデンスに住んでいて、彼に会えなくなると同時に二度と足を踏み入れることのなくなる建物内を、一歩一歩踏みしめて歩いた。

私の正面に座る星莉さんの表情は、私がお邪魔した時から曇っていて、ずっと何か言いたそうに戸惑っているように見える。


私もさっさと判を押して、とっとと退散しようと思っているのだけど……なかなか手が動かない。

この二日間はできるだけ心を無にして今日のことを考えないようにしていたけど、いざその時が来るとやはり迷いが出る。

本当に忘れられるか、テンちゃんに会えない生活に耐えられるか…。
この後電話でちゃんと、彼に別れようと伝えられるか。

伝えられるか伝えられないかじゃなく、伝えなきゃいけないのは分かっている。

……そうだ。これは彼のためでもあるんだ。
テンちゃんが院長になった姿なら、きっとニュースかなんかでも知ることができる。

少なくとも、姉がエンジェルウィング病院で出産するまでは、外科の方をちらっと……って、それもダメなのよね。

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