青いスクラブの王子様。~私が惚れたのは、一等級の外科医だった件~
…腹を割れ、みやびよ。
テンちゃんは何度も好きって言ってくれたのに、私は一度も伝えられなくてごめんなさい。
一昨日のデートドタキャンしてほんとごめんなさい。
…大好きです。今までありがとう。
この後てぃーのに行って花菜ちゃんに慰めてもらおう。泣いて泣いて泣きまくろう。
花菜ちゃんなら、胸貸してくれるよね。
だから今は涙を流す時じゃない。
判子が入った小さなケースの蓋を開け、肌色の細い判子を朱肉にぐりぐり押し付ける。
真っ赤に色付いた「鳥飼」の文字の向きを確かめ、左手を書類に添える。
涙で視界が曇りそうになるのをやっと堪え、判子を紙に近づけ―――
「待った……待て、ストップ!押すな……!」
ぽんと、判子を押した、はずだった。
私の腕は、何者かに掴まれている。
判子は……すんでのところでまだ押されていない。
何者か、なんて分かってる。
誰が止めているのかくらい、すぐ分かる。
テンちゃん。なんで止めるの―――
「……間に合った………」
ポタリと、膝に一粒雫が落ちてしまった。我慢できなかった。
肩で息をして、私の腕を掴んだまま脱力するテンちゃんを見たら、どうしても我慢できなかった。
くしゃっと髪をかきあげ、ふらふらと立ち上がった彼は目を細めて、涙が伝う私の頬を指でなぞった。
やめてよ…星莉さんが見てる……
こんな姿、星莉さんは見たくもないんだから、何泣いてんの私…
「……ふっ…はぁ…やっぱり、私じゃダメなのね」
「…あぁ。みやび以外とは結婚できない。俺が好きなのは、世界で一人、みやびだけだ」
だれ、恥ずかしい台詞を言ってるのは……どういうこと…
なんで星莉さん笑ってるの……
「ごめんね、鳥飼さん。本当にごめんなさい」
状況を理解しきれない私の目の前で、星莉さんは徐に立ち上がると、判を押そうとていた紙をど真ん中で破った。
ビリビリと細かく千切ると、丸めてそばのゴミ箱に投げ入れた。