Sweet break Ⅳ
『…落合』
『はい?』
『今日のPJ、俺のサポートなしでいけるな』
『えっ』
『お前こそ、泣きながら俺に、”誰にも頼りたくない”って言ってたよな』
『そ、それは…』
『なら自分で何とかしろ』
『それは、困りますっ』
『俺は困らない』
『関さんっ、私一人でなんて無理です、あ、ちょっと待ってください!』

機嫌を損ね、さっさと執務室に歩き出す関君の後を、焦った様子の落合さんが、追いかけて行く。

そんな様子が珍しいのか、通り過ぎる人が振り返るほど。

私はと言うと、もはや、二人の後ろ姿を見送ることも出来ず、背にあるコンクリート製の冷たい柱にもたれ、愕然と立ちつくしたまま動けずにいた。

二人の会話から導かれた確証と、そこで二人の身に起こった秘密裏の出来事。

少なくとも出張先の福岡で、二人が一夜を同じ部屋で共に過ごしたのは間違いない。

モデル並みの整った顔とスタイルを持ち合わせながら、女性に軽薄な印象が無い、今時稀有な硬派な男性。

実のところ、そんな関君だから、今回のことも、”まさか関君に限って…”と、完全に”高を括っていた”自分。

馬鹿だ。

金曜日、あんな風に見つめられて、身の程もわきまえずに、”もしかしたら、本当に自分が求められているかもしれない”なんて、調子に乗った。

好意の宿る熱い眼差しは、自分にだけ見せてくれているのだと、勘違いして。

未だまともに手も繋げていない”恋人”の私と、 関君の一番近くにいる存在の”後輩”の落合さん。

考えれば、彼の気持ちが動くのも、仕方ないことのかもしれない。

そう自分に言い聞かせ、込み上がる熱いものを胸の奥にしまい込み、ゆっくりと執務室に向かった。

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