転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

（拗ねてるのか本音なのか……。どちらにしろ、ちょっとご機嫌取っておいた方がよさそうね）

サマラは小さな手でキュッと隣のディーの腕を掴むと、草色の瞳を無邪気に煌めかせて上目遣いで見つめた。

「おとーさま。私はいつか砂漠の国を旅してみたいです。カレオさまと……おとーさまと一緒に」

一瞬ディーがピクリと動いた気がしたが、彼は黙ったままこちらを向かない。サマラはさらに追い打ちをかける。

「砂漠にはラクダという動物がいるんですって。おとーさまはご存知ですか？　どんな動物だろう。お馬さんみたいなのかなあ。もしお馬さんみたいな動物だったら、おとーさまと一緒に乗ってみたいです」

「……ラクダも知らないのか、愚か者が。あとで動物の図鑑を買ってやるから見ろ。背中にこぶのある馬のようなもので、ふたり乗りが出来る動物だ」

「わあ、さすがおとーさま！　物知りですね！　じゃあ海のイルカって動物もご存知ですか？」

「イルカは動物じゃない。海洋哺乳類だが……見た目は巨大な魚といったふうだ。鱗はないがな。賢くて人の簡単な指示なら理解出来るものもいる」

「すごい、すごーい！　おとーさまは魔法のことだけじゃなく、なんでもご存知なんですね！　私、知ってます。おとーさまみたいになんでも知ってる人のことを、『天才』っていうんですよね」

ちょっと褒めすぎだろうかとサマラは内心鼻白んだが、ディーはまんざらでもないようだ。表情は変わっていないが、ようやくこちらを向いた。

「くだらん。こんな幼稚な知識で天才などと呼ばれたら、大陸の人間のほとんどが天才になるな」