カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
「行こう、桃」
手を取られ、立ち上がった。
私を連れて立ち去ろうとする背中に、鳴海くんが声をかける。
「待ってください。俺をこの場で解雇してください。俺は、桃さんを貶めようとして、美澄さんも罠にかけたんです」
すると、切れ長の目が正座でこちらを見上げる青年をとらえた。
「なにを言っているの。お前は週明けからもウチの従業員だよ」
鳴海くんの二重の大きな目が、動揺の色を濃くした。
てっきり首を切られると思っていたようだが、振り返った千里さんは表情ひとつ変えない。
「納期をずらされた件はどうにかなったし、プライベートがどうであれ、鳴海の接客力と商品知識は買っている。それに、お前は俺が育てた。若旦那として、有能な従業員を他にやるつもりはない」
信じられない、といった顔をしていた青年は、やがて深々と頭を下げた。
その後、会話もないまま廊下に出てふすまを閉める。
こちらの姿が見えなくなった途端に美冬さんのすすり泣く声が聞こえたが、千里さんは私の手を離さなかった。