カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~


 腕時計を見ると、針は午後十一時を回っていた。刻々と近づく終電のタイムリミットに胸が痛む。帰路についても、あの家には味方なんていない。


「帰りたく、ないな」


 つい、そう口にしていた。ぽつりと呟いたセリフが、ふたりだけの展望台に小さく響く。

 数秒の沈黙が流れて、笑みを含んだ低い声が聞こえる。


「それは、誘ってる?」


 すっと肩に手を回された。

 こちらを覗き込む表情は、初めてみる男の顔だ。飲み込まれそうな甘い雰囲気と品のある色気にあてられる。

 軽く引き寄せられ、肩がぶつかった。距離が近い。


「ウブな子なのかと思っていたけど、いつも男にそうやって言っているの?」

「ち、違います。思わせぶりなことを言ってすみません。でも、本当に誘ってるとかじゃなくて」

「酔っちゃったのかな?君も、俺も」


 その瞬間、目の前に影が落ちた。

 長い指が頬に添えられたと気づいたときには唇を奪われている。

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